都筑道夫愛読会その1

最近都筑道夫にはまり始めたので、小説を集めています。いやまだ初心者ですが。
文庫全集も出始めたのでそちらも買っていますが、なにしろ短編を600編以上、長編もいろいろと書かれた方なので、なかなか追いつかず、もっぱら古本屋で買っていたりします。
(日本で一番短編を書いたのは、星新一阿刀田高都筑道夫のどなたかという気がするのですが。どうなんでしょう。…星新一かな?)
ほんと作風が広くて(ミステリSFパスティーユ翻訳パズル怪談歴史艶笑ものまで)、本も沢山出ているので集めがいがあります。
昨日はちょうど2冊ほど読んだのでその感想を。

まず都筑道夫コレクション《怪談編》血のスープ」光文社文庫)から。
これは都筑道夫の数多い作品から怪談に関わるような話を長編・短編・エッセイと選りすぐって集成したものですが。表題作でもある長編「血のスープ」は初めて読みましたが、とても面白かったです。文庫には初収録だそうです。
ひとことでいえば吸血鬼ものなんでしょうか。はじめは舞台はハワイ。そして日本へと移り変わります。そのなかで、ほんとうに吸血鬼なのかもわからない怪しげな人物が出てきます。その存在感と人間離れした感じがなんともいえないです。そうしてちょっとした出来心で吸血鬼?に大きく関わることとなる初老の男性である主人公の煩悶がなんともいえずリアルです。あくまで今までの日常を続けながらも、吸血鬼に常に繋がれている。その繋がり方もある意味現代的だなあとも思います。そして通信手段も(この通信の際の表記方法がなかなか大胆でよかったです。まあ実物をみてもらうのが良いかと)。ヒロインも主人公に御されるのではなく、はっきりとした意志をもつ女性として描かれていてイイ感じです。そして吸血?シーンもなかなか妖しげで良かったです。ラストもいろいろ想像させる終わり方だなあと思います。

そのほかの短編も本当に上手いです。どの作品も端正であり、ついつい話術に乗せられているうちにラストで思わぬ驚きを与えられてしまうという感じです。
好きなのは義理の父を疑う少年の話「ハルピュィア」やふと訪れた雑貨店で見つけたドールハウスを巡る「人形の家」、ある殺人がなぜかゾンビを生み出す起因となるコミカルな「骸骨」など。「風見鶏」と「夜の声」はひとつのアイディアで短編とショートショートに書き分けたもの。構成の違いが面白かったです。初めて読んだ雪崩連太郎ものも面白かったなあ。なぜか怪異に縁のあるルポライターが旅先で遭う事件。今度は全集も読んでみたいです。エッセイも作者の舞台裏がかいま見えたり、他の作品が読みたくなったりして興味深かったです。

次に「25階の窓」新潮文庫)。怪談を集めた短編集。表題は25作の作品が収録されているところから来ているそうです。
収録数が多いため、とくに気に入った話だけ紹介させてもらいます。
冒頭にある「阿蘭陀すてれん」。どうしても読めない小説を友人に貸してもらったことから始まる怪異。題の意味は文中にあるとおり、ある遊具をさすことばなのです。友人のなにげないことばがラストで異様に胸に迫ってきます。
「かくれんぼ」も怖い話です。はじめは恋人達のなにげない戯れだったはずが、次第次第に狂っていき、とても美しいラストシーンへとつながっていきます。
「古いトランク」は古いトランクを巡り、引き起こされる話。とても異様なのにまるでいまにも起こりうることのような奇妙な錯覚を覚えます。
「神になった男」は現代版カフカともいえる話。途中までコミカルなのにラストはなんとも哀愁が漂います。
「片腕」はなくした片腕を探す話。どちらが彼岸でどちらが此岸なのか。どちらがいい人でどちらが悪い人なのか。とても曖昧になる話です。
「髑髏盃」はふとしたことで見つけた盃を巡り怪奇が起こる話。皆が豹変していく様が見物です。
「春で朧でご縁日」は泉鏡花の小説の一節から取った題です。ふと主人公が出かけた縁日がまるで泉鏡花の話のようにうつつは思いがけない風景へとつながり、思いもかけないものを見つけます。
最終話「古い映画館」は閉館した元映画館が舞台です。友人と入り込んだ主人公は、暗い舞台の上の白い光に恐ろしいものを見せつけられます。
というわけで、駆け足で紹介してみました。どの作品もそれぞれおもしろかったですよ。